国際協力の仕事と映画な日々

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写真展の「顔」になることができなかった写真のこと

3歳のシリア難民の男の子、アイラン・クルディちゃんがトルコの海岸に打ち上げられた写真は世界中に衝撃をもたらしました。

一方、シリア隣国ヨルダンで数年前からシリア難民の子どもたちに教育支援を行っている私の団体では、アイランちゃんの悲しいニュースが起きる1年以上前から、シリア難民問題に無関心な日本の人々に、少しでも興味を持ってもらおう、支援に参加してもらおうと、今年9月に写真展を開催するための準備を進めておりました。

 

私がアイランちゃんの写真を目にしたのはFacebook上でしたが、見た瞬間、日本でも関心が高まり、自分の団体にもシリア難民関連でメディアから問い合わせが増えるだろうと確信しました。

翌日には新聞でもアイランちゃんのこと、そしてヨーロッパに押し寄せるシリア難民のことが大きく取り上げられ、その日の午後には職場にもテレビ局から「シリア難民の映像を貸してもらえませんか」と電話がありました。

「私たちは隣国ヨルダンに逃れてきた難民の支援をしているので、ヨルダンにある難民キャンプを映した映像ならあります。Youtubeにアップしているので、まずはそちらを見てみてください」と同僚が答えたしばらく後に、まだ電話がなりました。

「もっと、シリア難民が大挙して押し寄せるような映像はありませんか?」

そんな映像は手元に無いため、丁重にお断りしました。

 

シリアの方々が苦境に立たされているのは、何も最近始まったことではありません。

2011年の春、ちょうど日本で東日本大震災が起きた頃から国内情勢が悪化し始め、身の危険を感じた一般市民が続々と国を離れ隣国ヨルダンやトルコに逃れ始めたのです。

そして2015年の今、隣国ヨルダンは難民受け入れの限界に来ており、行き場を失ったシリア難民がヨーロッパをめざし、海で犠牲になる方々が後を絶たないのです。

 

アイランちゃんの写真で世界中の人に芽生えた意識を、一過性のものにしてはならないと強く思います。

 

今回、写真展で展示している作品の中で、難民キャンプの学校で教鞭に立つ臨月の女性教師の写真と、彼女が出産後1歳になった子どもと一緒に写っている写真があります。

シリアから逃れてきたその女性教師は、こう語ります。

「この子は故郷も知らないけれど、戦争も知らない。それが一つの救いです」

 

もう一枚、お見せすることはできないのですが、今回の写真展で展示している、ある写真について紹介したいと思います。

その写真は、ヨルダン北部にあるザアタリ難民キャンプ内の数少ない学校で撮られたものでした。

大きく太陽と青空、そしてその下に一軒の家が描かれている壁。その前でにっこりほほ笑む10歳ほどの二人の少女を写した写真。

この絵はシリアから逃れてきた子どもたちが、美しかった故郷を思って描いた壁画で、その前にたたずむ少女たちの表情も良く、当初は今回の写真展の代表写真に決まっていました。

ところが、リリースも済ませてFacebookで告知を開始したところ、すぐさまヨルダンチームからその写真を使わないで欲しいと連絡が入ったのです。

理由を聞くと、壁に描かれた画の上にアラビア語の文字が書かれており、この写真が拡散されると、写っている少女たちやその家族、さらには現場で活動するスタッフも危険にさらされるから、という答えが返ってきました。

確かにSNSで拡散され始めると、すぐさま国境を越えて、写真は一人歩きを始めてしまいます。

私たちが壁の傷か何かだろうと思っていたものは、実はアラビア語で、しかもアサド政権を批判する内容の文言でした。

早急にFacebook上から写真を削除し、写真展の代表写真を別のものへと変更しました。

作品自体はとても心を打つものなので、写真展会場での展示は継続することに決め、「撮影禁止」マークを取り付けました。

現場チームに事前確認をしなかったことは、今後の反省課題です。

 

国際理解促進や、団体認知アップのために毎年写真展を開催してきましたが、今年は開催直前に世界に衝撃を与えたアイランちゃんの写真と、変更せざるを得なかった元代表写真のことがあり、改めて良くも悪くも写真の持つ力、そしてSNSの力を痛感する年になりました。

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写真展は9月23日(水祝)まで新宿御苑近くのギャラリー「シリウス」で開催。
間に合う方はぜひ。

knk.or.jp

  

 


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